FINALFANTASY IXは2000年にPlayStationで発売されたシリーズ第9作品目です。本作は『FFVII』『FFVIII』とは一転したノスタルジックな雰囲気が特徴です。テーマは”原点回帰”ということで,キャッチコピーにもあるようにクリスタルが象徴的に現れているのも今作ならでは。ここまでに進化した音楽やグラフィックを駆使して,過去のシリーズを思わせるビジュアルに昇華しています。そして本作には過去シリーズの小ネタが散りばめられていますので,ファンには嬉しいコンテンツです。
本作はシナリオ面で高い評価を受けています。死生観を問う哲学的な内容ですが,難解というほどではありません。プレイヤーへの訴求力を追求したシナリオは今も色あせない名作です。
概要
FINALFANTASY IXは2000年にPlayStationで発売されました。その後は2016年にSteam版,2017年にPlayStation4版,2019年にNintendo Switch版などさまざまなプラットフォームに移植されました。発売年の2000年には「ザ・プレイステーション・オブ・ザ・イヤー」にて第1位に選ばれるなど話題となりました。本作はこれまでのFFシリーズを思わせるコンセプトが盛り込まれており,王道ファンタジー路線の内容になっています。
コンセプトでもある”原点回帰”はデザインやシナリオ面に反映されています。例えば,キャラクターの頭身が『FFVI』までを思わせる「スーパーデフォルメ(SD)」となっています。ファンタジー色を感じる絵本のような世界観が楽しめます。一方で,シナリオは死生観など哲学的な内容となっています。その他,複雑なシステムを撤廃したシンプルな戦闘もFF初期を思わせる構成です。
主要人物
- ジタン・トライバル
-
劇団兼盗賊団「タンタラス」の団員で,猿のようなしっぽが特徴の青年。アレクサンドリアの王女ガーネットに一目惚れしたことからタンタラスを脱退し,共に旅をすることになる。以降は彼女の存在が行動指針と原動力となる。終始明るい態度や軽い言動からお調子者と思われがち。
- ビビ・オルニティア
-
トレノ東の洞窟で拾われて育てられた黒魔導士の少年。気弱な性格で,いつもおどおどした態度をとっている。しかし誰かを助けるためには怖さをこらえる強さも持っている。また黒魔導士としての能力は非常に高く,自身でコントロールできなくなるほど。
- ガーネット・ティル・アレクサンドロス17世
-
アレクサンドリアの王女で,上品でおしとやかな女性。城育ちで何不自由なく暮らしてきたためか,世間知らずな一面もある。そんな自身の生き方を変えるために王城を飛び出し,偽名を名乗って冒険の旅に出る。
- アデルバート・スタイナー
-
アレクサンドリア王国男兵騎士団「プルート隊」の隊長。頑固な性格で,主人にどこまでも尽くす典型的な武人タイプ。盗賊であるジタンを忌み嫌っており,「猿」と呼ぶなど嫌味も言っていた。図らずも彼らと行動するうちに心境に少しずつ変化が現れる。
- エーコ・キャルオル
-
マダイン・サリにてモーグリたちと共に暮らす召喚士一族の生き残りの少女。明るく活発で年齢にそぐわぬマセた行動が多い。一方で,寂しさや孤独を感じるシーンも多く,活発な言動はその裏返しともとらえられる。
- クイナ・クゥエン
-
何をするにも食欲優先で食べることを生きがいとしているク族のコック。大好物のカエルのこととなると我を忘れて行動してしまう。食の道を究めるため,ジタンたちと旅をすることになる。敵を食べることで,その敵の技をラーニングできる。
- サラマンダー・コーラル
-
単独での行動を好む孤高の用心棒。他人との協力を馴れ合いとみなして誰にも頼ろうとせず,絆を大切にするジタンの考えを否定していた。しかしジタンとの関わりのなかで「絆」や「仲間」について考え始めるようになる。
- フライヤ・クレセント
-
容姿端麗なネズミ族の亜人であり,ブルメシアの女竜騎士。古風な口調が特徴で,戦いの旅に出た恋人を追って旅をしている。巫女とダンスに興じるような女性的なおしとやかさを見せる反面,サラマンダーと喧嘩騒動を起こそうとする血の気の多さも併せ持っている。
- クジャ
-
アレクサンドリア王国に現れた謎の青年。中世的な姿にユニセックスな恰好をしており芝居がかった言い回しを好む。自己陶酔しがちなナルシストでありながら,サディスティックな一面もある。
ストーリー
盗賊団タンタラスの団員とジタンらはアレクサンドリア王女ガーネットの誘拐を画策し,飛空艇で王国に乗り込む。ガーネットは自らをさらってほしいと願い,ジタンはその依頼を受ける。飛空艇に乗り込み逃亡を試みるなか,ガーネットを追ってきたスタイナー,成り行きでビビも乗り込んでしまう。直後にアレクサンドリア女王による攻撃を受けて,飛空艇は魔の森に墜落してしまった。
魔の森を抜けた一行はガーネットの希望により隣国リンドブルムへ向かう。そこにガーネット奪還のため差し向けられた魔導士「黒のワルツ」が現れる。これをきっかけに一行はアレクサンドリア女王に疑念を抱き,真実を突き止めるべく各地へ旅に向かう。偶然にも共に行動することになったジタンたちは旅のなかで,自身の出生と向き合い成長していく。
戦闘システム
全体的にシンプルな構成
本作の戦闘は『FFVII』,『FFVIII』の複雑さを受けてかシンプルな構成になっています。従来どおりのアクションタイムバトル(ATB)システムが採用され,戦闘には『FFVI』以前と同様4人まで参加できます。キャラクターごとにジョブが設定されており,異なるアビリティを持っています。そのため『FFIV』や『FFVI』のように各キャラクターが独自の役割を持つため,その特性を活かした戦術を考える必要があります。敵のHPも全体的に低めに設定されるなど,難易度は比較的低いです。初心者の方にはおすすめできる一方で,物足りなさを感じてしまうかもしれません。
見た目・能力が覚醒 ”トランスシステム”
本作の新要素として,戦闘中に特定の条件を満たすことで発動する「トランス」というシステムがあります。キャラクターが「トランス」状態になると変身し,能力が一時的に大幅に上昇します。アビリティが上位のものに変化したり,コマンド自体が独自のものに変化するなど異なる強化がされ,演出も全体的にド派手になります。
戦闘難易度が低いのは,RPGが苦手な方にもプレイしていただきやすいです。総じて,大味要素こそないもののゲームバランスを丸くしたといった感じでしょうか。
本作の目玉 ”ぬすむ”
本作の主人公ジタンは盗賊ですので,初っ端から”ぬすむ”を会得しています。そしてこれが凝り性の人には沼ってしまう要素で,貴重品をぬすむこともできます。複数アイテムを所持している敵からはその分だけぬすむことができ,貴重品ほどぬすむ確率は低くなっていきます。例えば,Disc2のボス・ヒルギガースからは妖精のファイフをぬすむことができますが,その確率はなんと1/256です。この時点で入手できる武器としては有能なのでぬすみたいところですが,数時間かけても「ぬすめなかった!」のはいい思い出でした…。
これまでのシリーズでもぬすむは大活躍していましたが,本作では特に重要となっています。というのもジタンには「盗賊のあかし」というアビリティがあります。これは敵からぬすんだ累計回数とジタンの素早さでダメージが決まるので,場合によっては超火力を発揮できます。積極的にぬすんでいけば攻略も楽になるかもしれませんね。
体験談(※一部ネタバレあり)
ここからは個人の感想ですが,本作はシナリオ展開がドラマチックなところが魅力だと思います。分かりやすく例えるなら,「展開はディズニー,世界観はジブリ」といった感じでしょうか。いわゆるライト層にも楽しんでもらえるような構成になっています。難易度的にも気軽にプレイしていただけると思いますので,FFを知らない方にもおすすめですよ。ここからは,本作らしさをお伝えします。
訴求力を高める ”キャッチコピー”
本作は死生観がコンセプトでもあることから,全体的に切ないシナリオとなっています。なかでもシナリオでは”生命“に関わる描写が多く,各キャラクターの出生や背景がしっかり深掘りされています。それを踏まえ,本作は各キャラクターごとにもキャッチコピーがあり,それぞれの想いを表現しています。
ジタン | 誰かを助けるのに理由がいるかい? |
ビビ | 生きてるってことを証明できなければ,死んでしまっているのと同じなのかなぁ… |
ガーネット | 「王女らしく」ではなく,本当の自分を確かめたいの…でも… |
スタイナー | 人の為に生きることは真に自分の為なのか教えてほしい,何のために人は生きるのか… |
エーコ | 大丈夫だなんて思わないで…,一人でいるとさびしさがいっぱいやってくるの… |
クイナ | 好きなことやってて悪いアルか!だけど…たまには叱ってほしいアルよ… |
サラマンダー | 自分が何をしたいか何ができるのか,今その答えを出せというのか… |
フライヤ | 思い続けることの辛さより,忘れられることが怖いのじゃ |
デフォルメされた可愛らしいキャラクターたちとのギャップが印象的です。特にビビはストーリー序盤からその暗い出生について考えさせられるシーンが続きます。ビビはとても素直なため,その言動がストレートに響きました。それぞれの心境の変化や成長がシナリオを通じてしっかりと感じられます。成長したキャラクターたちと迎えるラストシーンはめちゃくちゃ感動します!FFシリーズのなかでもトップを争うほど人気なエンディングですので,ぜひプレイしてみてください。
本編そっちのけのやりこみ要素が盛りだくさん
本作にもミニゲームを含むやりこみ要素が用意されています。ミニゲームには「かけっこ」「なわとび」「だるまさんがころんだ」「チャンバラ」「カードゲーム」などなど…。ちょっとしたミニゲームが多数楽しめます。世界観も相まってかわいいです。(特にビビのなわとび)
また最強の剣「エクスかリバーⅡ」が入手できるというやりこみ要素もあります。その条件が”プレイ時間12時間以内にラストダンジョンのある場所に到着する“というもの。普通にプレイしていてはまず間に合わないです。ですが,実際やってみるとそこまで厳しいタイムでもありません。一般プレイヤーにタイムアタックを要求している程度のレベルですので,本作を隅々まで遊びたい方はぜひチャレンジしてみてください。
あまりに説明不足すぎた者たち
本作にはネタにされるほど正体不明の敵キャラクターが登場します。”オズマ”(画像左)と”永遠の闇”(画像右)の両名ですが,ご存じでしょうか?
オズマはいわゆる隠しボスにあたり,ある場所を調べると突如戦闘がはじまります。道中にオズマを示唆する伏線はなく,戦闘に入っても説明なし。正真正銘の正体不明の球体です。本作屈指の強さを誇り,一部を除いて通常攻撃はあたりません。加えて「ジハード」など強力な魔法攻撃を使用するほか,「ケアルガ」で頻繁に回復します。極めつけはATBゲージが一瞬で溜まるため行動回数が多く,ウェイトモードでプレイすると後手に回るため圧倒的に不利になってしまいます。かなり育成してから挑まなければ,何もできずに瞬殺されてしまいます。ちなみにオズマの正体は召喚獣説が囁かれていますが,真実は今も分かりません。
永遠の闇は本作ラスボスになりますが,あまりに唐突に登場するので「誰?!」というのが正直な感想。ラスボスの割には存在感が薄いことで有名ですね。「グランドクロス」など強力な技を駆使しますが,あんまり苦戦はしなかった印象です。正体については後のアルティマニアに,「野望達成を目前に余命わずかと悟ったクジャの,恐怖や絶望,憎悪が呼び覚ました存在」と書かれています。クジャの負の感情が生み出したってことですね。妙に深い言葉を遺しますが,そんなことより説明もなく出現する衝撃が強すぎて,存在感を感じませんでした。
まとめ
FINAL FANTASY IXはノスタルジックな世界観でありながらも”死生観”というシナリオが特徴となっています。この重厚なシナリオがあるからこそ奥行きが生まれ,大きな評価を得られたのでしょう。各キャラクターの背景が丁寧に描かれているのも印象的です。
戦闘や寄り道など細々したやりこみ要素はあれど,わりと直感的にプレイできるためRPG初心者の方でも大丈夫です!そして過去シリーズの小ネタが盛りだくさんですので,ファンの方は非常の楽しめるタイトルだと思います。FF黄金期を担う本作をぜひ一度はプレイしていただきたいです。
- ”原点回帰”をコンセプトに進化したビジュアルとノスタルジックな世界観
- シンプルな戦闘システムのため,初心者でもプレイしやすい
- ディズニーのような展開かつ,ジブリのような世界観